2014年7月1日火曜日

水生昆虫のライフサイクルをイメージしよう

フライフィッシングのビギナーでもビギナーでなくても、どのフライを選ぶかと言うのは非常に難解な問題ですネ。
ある程度経験を積めばそれまでの実績や川を取り巻く環境から何らかのサインを読み取り、ボックスの中のフライを摘み取ることが可能になりますが、その経験がないビギナーにとってはまさにアテズッポウとなってしまいがちです。
そのアテズッポウに何らかの信頼を与えるのは専門誌に掲載されたフライの写真なのでしょうか・・・。




さて、ビギナーの脱アテズッポウの第一歩として、以前メイフライを例にとり実際のフィールドでライズを前にしてドライフライを選ぶ時の考え方を紹介しました。(「ライズフィッシングとドライフライの選び方」参照。)
その中で「生きている状態のカゲロウが水面近くを飛び回っているとき」「水面に張り付いて流れているような場合」などと表現しましたが、今回はそれらを含めて昆虫のライフサイクルを考えながらフライを選ぶ際の手がかりを探したいと思います。

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【メイフライのライフサイクル】




「Mayfly life cycle」 Timsbury Fishely(英国) サイトより
http://www.timsburyfishery.co.uk/default.asp

一口にメイフライといっても生存環境に応じて実に多くの種類がいるのですが、ライフサイクルは概ね一緒なので、シンボリックに考えたいと思います。
上の図と照らし合わせてメイフライの一生を追ってみてください。

  1. 幼虫(ニンフ Nymph)
  2. 水面での羽化(イマージャー Emerger)
  3. 亜成虫(ダン Dun):成虫と同じ形をしています。ここからもう一度脱皮して成虫となります。
  4. 成虫(スピナー Spinner):口も退化し排泄もしないそうです。交尾して子孫を残すのみ。
  5. 交尾(マッチング Matching spinners)
  6. 産卵(オビポジッティング Ovipositing spinner)
  7. 死骸(デッドスピナー Dead female spinner、スペント・スピナー Spent spinner)

ニンフは卵から孵ると川底で生活しますが、その期間は種類によって異なるようです。
成虫になる準備が整ってから、多くの場合春から秋にかけて水中で幼虫の殻を破りながら浮上し、水面に漂います。この状態がいわゆる「イマージャー」であり、もっとも捕食される割合が高いと思われます。
トラウトの目線で見ても、ハッチの途中で身動きがとれずに水面(または水面直下)を漂うだけですから労せず食べられるご馳走といえるでしょう。
イマージャーを経て羽化したものを亜成虫(ダン)と呼び、それからもう一度地上で脱皮して成虫となります。

ダン(亜成虫)とスピナー(成虫)を比べると、ダンはスピナーよりも少し太めのボディで脚や尾も短めです。また体や羽に細かな毛が生えていて水濡れに強いといえます。また羽も透明でなく色や模様がついています。
ダンは水面を離れて木の枝などに止まり数日を経てから最後の脱皮をしてスピナーとなります。

スピナーは空中を飛びながらパートナーと出会い、交尾し、産卵を経て死んでいきます。
産卵は空中から卵塊を川に落とすもの、水面に乗って産むもの、水中にもぐり川底に直接産むものなど、種類によって異なります。
死んだスピナーが羽を広げて水面に張り付くように流されている状態を(ちょっとかわいそうな呼び名ですが)スペント(spent. 使用済みの意)と呼びます。

次に実際のフライがメイフライのライフサイクルの中でどの状態をイミテーションしているのか、またはさせることができるのか、考えて見ましょう。

【フェザントテイル・ニンフ Pheasant tail nymph】
これは当然、幼虫(ニンフ)ですね。ウェイト(オモリ)を巻き込んで、或いはリーダーにガン玉オモリ付けてボトム付近を狙ったり、またあえてノン・ウェイトで水面直下を漂わせることもできます。
水面直下を流す場合は、イマージャーになりかけの状態を演出することになるでしょう。

フェザントテイル・ニンフ

【スタンダード・ドライフライ Standard dry fly / Spinner】
フックシャンクに対して垂直にハックルを巻いたドライフライをスタンダードタイプと呼びます。
水面に高くフワリと乗せて流せば幼虫から脱皮した(イマージャー)後の亜成虫(ダン)が羽が乾くまでの間漂いつつ流されている場合や、成虫(スピナー)が産卵のために水面に降りた状態などを演出させられます。
テイル部分にフロータントを付けずあえてテールが沈み込み、ハックルより上部(前部)だけが水面に浮いている状態で流せば、当然イマージャー(羽化しつつある状態)となるでしょう。

スピナー(スタンダードドライフライ)とパラシュート

【パラシュートフライ Parachute】
フックシャンクに平行(水平)にハックルが巻かれたドライフライをパラシュートと呼びます。
これは水面にペタリと乗るので、イマージャーの状態や死んでしまい流されているだけのスペント・フライのイミテーションとなります。


以上、誰もが持っているであろう代表的なニンフとドライフライが一体何を表現し得るのかを紹介しました。
もうお分かりの通り、この3種類だけでメイフライのイミテーションとしてはほぼ全てをカバーできるということになります。
クリップル?CDC?専門誌を賑わす末端の情報のみに目を奪われてそのフライが何を意味しているのかを疎かにしていませんか?

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【カディスのライフサイクル】
次にメイフライと同じくらい重要な水生昆虫、「トビゲラ(カディス Caddis)」についても同様の観察をして見ます。


「Caddisfly life cycle」 Timsbury Fishely(英国) サイトより
http://www.timsburyfishery.co.uk/default.asp

カディスもメイフライ同様川底で卵から孵りほぼ一年間をそこで過ごします。成虫になる数週間前にサナギとなり、羽化に合わせて水面に浮上します。水面でサナギの殻を破り成虫となって飛んでいきますが、成虫は川面を飛び回り、産卵の後死んでいくのもまたメイフライと同様です。

  1. 幼虫(ラーバ Larva)
  2. サナギ(ピューパ Pupa)
  3. 水面での羽化(イマージング・ピューパ Emerging pupa)
  4. 成虫(アダルトカディス Adult caddisfly)
  5. 産卵(オビポジッティング Ovipositing female caddisfly)

次にメイフライと同様実際のフライについて話を進めますが、ラーバおよびピューパについては別の機会に話を譲りたいと思います。
ここでは誰もが知っているアダルトカディスのフライについてお伝えします。

エルクヘア・カディス

【エルクヘア・カディス Elk hair caddis】

背中に乗ったエルクヘアのウィングが特徴的な万能フライがエルクヘア・カディスです。
上から見ると頭を頂点にした2等辺三角形のシルエットがカディスらしいといえばそういえなくもないのですが、果たしてアダルト・カディスのイミテーションとして機能しています。
ただし見かけが似ているかどうかはともかく、水面に浮かべた際のインパクトは本物のカディスが水面でバタバタする感じを想起させます。
一般的にはアダルト・カディスのイミテーションですが、当然半沈み状態にすればイマージャーとしても使えるでしょう。

このフライは定番故に実に多くのバリエーションがあります。
ボディにはダビング材を巻くことが多いようですが、私の場合はピーコックハールを用いています。
実はカディス・ピューパは緑っぽい色をしていることが多いので、エルクヘア・カディスをイマージング状態に見せるときには有効なのでは?と考えてのことです。

また、ピーコックハールは独特の色合いと質感でテレストリアル・インセクト(陸生昆虫)のイミテーションとしても欠かせないマテリアルであることから、このエルクヘア・カディスはカディスと関係なくそのまま森の木々から川へ落下した甲虫類のイミテーションとしても使えます。

エルクヘア・カディスは万能フライだとよく言われます。私も実際その通りだと思います。融通が利いて実に幅広い使い方が可能です。しかしなぜ万能なのか?考えてみてください。その可能性はずっとずっと広がるはずです。

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以上でドライフライを中心に、水生昆虫のライフサイクルの中でフライがイミテーションしようとしているものとの関係がお分かりいただけたかと思います。
あとは実際の川で捕食されている虫が一体どういう状態にあるのかを見極めることです。
観察し、推察する、実践する。
ミミズでなく、ルアーでもなく、フライで釣るのなら、魚を釣る事に夢中になって周りの環境を見る目が疎かではいけません。
少々説教臭くなってしまいましたが、ここにこそフライフィッシングの面白さがあるのではないでしょうか。

*注: トラウトフィッシングにおける水生昆虫といえば、以上に紹介したメイフライ(カゲロウ)とカディス(トビゲラ)に加えストーンフライ(カワゲラ Stone fly)が挙げられます。
ただし少なくとも日本の河川でフライフィッシングをする上においては、ストーンフライがそれほど大きなエサとしてのインパクトを持っているようには思えないのでここでは割愛することにしました。


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